このたび、能登半島での被災建物調査ボランティアに初めて参加しました。七尾市では、被害状況の調査と耐震改修工事の進捗確認を行い、被害の大きかった輪島市も訪問して、多くの現場を見て回りました。
被災建物の現状
調査した建物の中には、液状化現象による不同沈下や湿気による柱脚の腐食が進んでいるものがありました。一部では、過去の無計画な増築や造成が被害を拡大させた可能性も見られました。また、軟弱地盤への適切な対処が進んでいる現場では、耐久性を高めるための工夫が施されており、能登特有の建材や伝統技術の力を改めて実感しました。
築100年以上の立派な古民家も調査しました。この建物は比較的安定しているものの、耐震改修には大きな費用がかかることが課題です。地域のニーズや住む人々の状況を考慮しながら、このような建物の活用方法を模索することが重要だと感じました。
文化財の耐震改修の課題
輪島市では、總持寺祖院の耐震補強工事後の被災状況も確認しました。耐震工事が完了してからわずか3年で再び被災したことは、伝統建築ならではの構造特性と、近年の補強工事による影響が交錯する中で、改めて慎重な設計と計画が必要であることを実感させられる現場でした。伝統建築の特性を深く理解しながら、現代の技術を調和させることが求められます。
建築士としての考え
被災地を訪れる中で、建築における計画性の重要性を痛感しました。適切な地盤調査、構造計算、施工計画がなされていれば、木造住宅であっても災害への耐性を高めることが可能です。建築士が科学的根拠に基づき、リーダーシップを発揮することで、安心して暮らせる住環境をつくることができます。
同時に、建築は文化や伝統の継承という側面を持ちながら、地域の現実的な課題にも向き合う必要があります。少子高齢化や過疎化が進む地方では、被災した古民家の活用や保存、解体の判断が難しい課題です。それでも、自然災害を乗り越えて残る本物の建築物が光を放つ姿には、希望と感動を覚えます。
未来への希望
破壊と再生は自然の営みの一部であり、その過程を通じて本質的な価値を持つ建築が際立ちます。これまでの無計画な開発や脆弱な建物が淘汰される中で、被災者の皆さまの困難を乗り越えるための支援が重要であり、地域の景観や生活が再び健全で豊かなものに再構築されていくことを信じています。私たち建築士は、自然の力と調和しながら新しい価値を生み出し、次世代へと受け継ぐ建築をつくり続けていきたいと考えています。